厚労省検討会、生活保護の医療扶助改革へ。多剤・頻回受診対策を強化、手続き全面デジタル化を議論

今日も医療政策をウォッチャーしましょう！

Xのフォローもよろしくお願いいたします！！

引用

厚生労働省は令和7年10月30日に、「第2回医療扶助・健康管理支援等に関する検討会」を開催しました。本検討会では、生活保護受給者（被保護者）に対する医療扶助や健康管理支援に関する諸課題が幅広く議論されました。被保護者は、高齢化や単身世帯、非稼働世帯の割合が高く、孤独・孤立や精神面の不調といった様々な課題を抱えています。さらに、生活習慣病の罹患率が高く、外来受診日数や処方される医薬品種類が多い傾向も指摘されています。議論では、疾病の予防や重症化予防を強化し、医療資源の効率的な活用を図ることで、制度に対する信頼を高めていく視点が重要であるとまとめられました。今後の検討の方向性として、福祉事務所と医療関係者との連携強化、および業務の効率化と重点化が図られる見通しです。

主要論点と今後の検討方向、政策的な含意

1. 被保護者健康管理支援事業（健管支援事業）の抜本的な見直し

被保護者の健診受診率は約8％で低く推移しており、その改善が大きな課題です。健康課題に応じた対応を強化するため、健管支援事業の仕組みを中長期的な視点で見直すことが議論されました。データヘルス計画を参考に、1期6年の計画的な実施や、効果評価のための標準指標を国が設定することが検討されています。また、福祉事務所（ケースワーカー）の体制を強化しつつ、行政内部（国保・健康増進部門など）や、地域の医師会、薬剤師会といった関係機関との連携を推進する必要性が示されました。

政策的な含意： 計画的かつ評価可能な健康管理支援事業への移行が進み、福祉事務所と地域医療専門職との連携が制度的に強化されます。

2. 医薬品の適正使用（多剤投与対策）における介入基準と方法の高度化

多剤投与（ポリファーマシー）対策の強化が喫緊の課題となっています。多剤投与の指導対象者の抽出基準（現行15剤以上）について、学会のガイドラインでリスク増加が指摘される「6種類以上」など、より薬学的なリスク評価に基づく基準に見直すことが検討されました。福祉事務所の事務負担を軽減するため、電子処方箋の重複投薬チェック機能などの医療DXの活用が重視されます。さらに、薬局の一元化を進めることや、地域薬剤師会など外部専門家の計画策定段階からの関与が重要であるとされました。

政策的な含意： 多剤投与対策の対象者抽出基準が見直され、地域薬剤師会など外部専門家や医療DX（電子処方箋など）を活用した、より薬学的リスクに基づく介入が推進されます。

3. 頻回受診対策における社会的課題解決と特定給付の実態把握

頻回受診の背景には、孤独や医師への依存といった生活課題があることが指摘されています。受診行動を是正するには、多様な社会参加や就労支援への「つなぎ」（社会的処方）といった自立支援の観点を含めたアプローチが効果的であるとされました。頻回受診の傾向を早期に把握するため、オンライン資格確認システムの実績ログ機能の活用が例示されています。また、給付額や件数が大幅に増加している訪問看護などの特定サービスについて、誘発需要がないか実態把握を進めることが求められます。 NDB（ナショナルデータベース）などのデータ分析に基づき、給付に係る一定のルールや基準を検討していく方向性が示されました。

政策的な含意： 受診行動の背景にある孤独や生活課題を解決するため、ケースワーク外の就労支援や社会参加への「つなぎ」が強化されるほか、訪問看護などの特定サービスにおける給付実態の分析と適正化の検討が進みます。

4. 医療扶助手続きの全面的デジタル化と標準化

医療扶助における手続きは、国の要領と運用実態にズレが生じており、業務効率化のためさらなるデジタル化が必要です。特に、オンライン資格確認の普及促進に加え、現在紙運用が多い要否意見書のオンライン化を必須とすることや、医療券の有効期間や発行頻度を標準化・見直すことが喫緊の課題とされました。オンライン資格確認と紙のやり取りが併存し、かえって業務負荷が増加している現状も指摘されており、どこかで退路を断って移行を必須とすべきとの意見も出ました。

政策的な含意： 紙ベースで運用されている医療扶助の各種手続き（医療券や要否意見書など）について、オンライン資格確認の活用を含めたデジタル化が義務化・一本化され、福祉事務所の事務負担が大幅に軽減されます。

5. 医療と福祉間におけるデータの双方向連携強化

質の高い支援を実現するため、ケースワーカーが把握している被保護者の生活状況に関する情報を、地域の医療関係者（医師、薬剤師など）とタイムリーに共有する仕組みが不可欠と強く指摘されています。医療機関や薬局が介入した結果を福祉事務所にフィードバックできるような、双方向のデータ連携体制の構築も、今後のデジタル化の重要な検討事項です。要否意見書についても、一医療機関との関係性だけでなく、個人の全体像が把握できる形での情報集約の必要性が議論されました。

政策的な含意： 福祉事務所が持つ生活情報と医療機関・薬局が持つ医療情報をデジタルで双方向共有できる仕組みが検討され、生活保護受給者へのより質の高い、全体像を踏まえた支援が可能となります。

次回の検討会では、今回の議論を踏まえ、当面の取り組みや中長期的な方向性について、さらに議論を深めていく予定です。