【要約】「戦略的な都市の健康行動の新しい時代」に関する資料（WHO）

この度は、WHOの「戦略的な都市の健康行動の新しい時代」に関する資料（ニュースリリース）に基づき、主要な論点と政策的な含意を整理します。

この資料は、世界保健機関（WHO）が「世界都市デー」（2025年10月31日）に合わせて、意思決定者向けの新ガイド『都市の健康に対する戦略的アプローチの採用』を発表したことに関するものです。このガイドは、都市を健康で、豊かで、強靱な社会の原動力に変えることを目指しています。

引用

WHO calls for a new era of strategic urban health action with global guide to unlock healthy, prosperous and resilient societies

With the new guide for decision-makers launched today, WHO provides concrete ideas to usher in a new era of urban health...

以下の5つの主要な論点、合意事項、今後の検討方向を整理し、それぞれの政策的な含意を説明します。

No.	主要な論点・合意事項・今後の検討方向	政策的な含意（何が動きそうか／何が変わりそうか）
1	都市化の増大と健康危機の切迫
	世界の人口の半数以上が都市部に住んでおり、2050年までにその割合は70%近くに達する見込みであり、都市環境は人間の健康に最も支配的な影響を与える場となっている。スラムや非公式居住地では不衛生な住居、食料不安、洪水や熱波への曝露など、最悪の健康被害が集中している。	都市計画やインフラ整備において、住民の健康増進と不平等の是正が、経済成長と同等かそれ以上に重要な評価軸として組み込まれるようになる。
2	統合的かつ戦略的なアプローチの必要性
	健康課題に対処し、都市環境で健康をより広く推進するための統合的な解決策への高まる需要に対応するため、WHOは証拠を政策と実践に統合する初の包括的な枠組みとなる新ガイドを策定した。これは、健康が特定の単一セクター（部門）の責任に限定されるものではないという認識に基づく。	従来の医療提供体制の枠を超え、都市全体の政策立案プロセス（自治体、開発業者、環境部門など）において、健康要素（ヘルス・インパクト）の評価が必須となる。
3	分野横断的な連携（セクター・アライメント）
	意思決定者（国および市のリーダー）は、分野や規模を超えて協力し、より公平で、健康的で、より強靱な未来を築くための枠組みを必要としている。このガイドは、気候変動、交通、デジタル変革、移民といった主要なグローバル政策課題との運用上の連携を図るロードマップを提供する。	地方自治体レベルでは、交通、住宅、環境部門との恒常的な連携メカニズム（ガバナンス）が構築され、病院や薬局は地域の健康施策決定プロセスへの関与が求められる。
4	実施手段（ガバナンス・データ・資金調達）の強化
	戦略的アプローチを実現するための具体的なステップとして、都市システムの複雑さの理解、他分野の政策アジェンダにおける行動の開始点の特定、そしてガバナンス、資金調達、データ、イノベーション、能力強化、パートナーシップなどの実施手段の強化が概説されている。	都市の健康課題解決のために、健康データ（地域疫学データなど）の収集・分析への投資が国家および地方レベルで増加し、データに基づいた革新的な公衆衛生施策が推進される。
5	都市健康戦略の策定と能力構築
	地方および国の政府が、首尾一貫した健康行動を生み出す上での重要な役割を認識し、都市の健康に対するより戦略的なアプローチを採用すること、および国と市の両レベルで包括的な都市健康戦略を策定することが求められている。また、協働作業の能力を強化するため、WHOアカデミーでe-ラーニングコースが開始されている。	都市計画、公衆衛生、行政を担う職員に対して、分野横断的な健康戦略を立案・実行するための専門的な研修（eラーニングなど）が広く義務化される方向に向かう。

補足的な理解を深めるための比喩:

WHOが提唱する「戦略的な都市の健康行動」は、健康を個々の臓器の治療に限定せず、**都市全体を「巨大な人体」として捉え直し、その生活環境（血管、神経、呼吸器に相当する交通、住宅、環境）**を改善することで、病気を根本的に予防しようとする取り組みに似ています。このアプローチでは、病院や薬局（従来の医療システム）は「治療・修復の専門家」であると同時に、「都市という体の健康を維持するための予防戦略会議」の重要なメンバーとなることが求められます。

引用