8億4000万人が直面する暴力危機：国際援助の「0.2%」しか対策に回らない現状で、医療・福祉に求められる次の手

今日も医療政策をウォッチャーしましょう！

Xのフォローもよろしくお願いいたします！！

WHOと国連パートナー機関による、女性に対する暴力（Violence Against Women: VAW）の世界的な蔓延状況に関する最新レポートと、この根深い危機への対策の遅れについて論じています。このレポートは、VAWが過去20年間でほとんど進展していない「最も永続的かつ対策が遅れている人権危機」であると警告し、各国政府に対し早急な行動と資金提供を求めています。

引用

404

Error 404

以下に、本レポートの主要な論点・合意事項・今後の検討方向と、それぞれの政策的な含意を整理します。

#	主要な論点・合意事項・今後の検討方向	政策的な含意（何が動きそうか／何が変わりそうか）
1	暴力被害の深刻な実態と停滞の認識
	生涯にわたりパートナー間または性的暴力を経験した女性は世界で推定8億4000万人（約3人に1人）に上り、この数字は2000年以降ほとんど変化がなく、過去20年間の年間減少率はわずか0.2%であるという事実を認識した。	VAWの撲滅は単なる社会問題ではなく、「公平性、安全、健康の前提条件」であるとして、国際社会および各国政府の政策的優先順位が格段に引き上げられる必要がある。
2	対策資金の決定的な不足
	暴力防止への取り組みは、増加するニーズにもかかわらず、資金が崩壊しつつあり、2022年時点で世界の開発援助のわずか0.2%しか防止プログラムに割り当てられていない。	各国政府は、支援予算の削減（Aid budgets）が進む中で、VAW対策プログラム、特にエビデンスに基づいた予防プログラムへの投資を国内予算から確保するよう強く求められる。
3	健康サービス提供体制の強化
	暴力被害者が、意図しない妊娠、性感染症、うつ病などの深刻な健康上のリスクに直面しており、性・生殖に関する健康サービス（SRH：性的および生殖に関する健康ケア）が被害者向けの質の高いケアの重要な窓口であると特定された。	薬局長や医療経営層は、単に治療を提供するだけでなく、被害者を中心とした質の高い保健サービス（トラウマインフォームドケアなど）を整備し、法務・社会サービスと連携する体制構築が必須となる。
4	ライフサイクルを通じた予防戦略の推進
	暴力のリスクが人生全体を通じて持続すること、特に15～19歳の思春期の少女の16%が過去12か月間にパートナーからの暴力を経験していることから、早期介入の必要性が強調された。	WHOが提供する「RESPECT Women」のようなエビデンスに基づいた防止フレームワーク（予防ガイダンス）に基づき、学校や地域社会における若年層・思春期を対象とした予防教育がより積極的に導入される。
5	データ収集と説明責任の強化
	非パートナー間性的暴力や、先住民女性、移民、障害を持つ女性といった最もリスクの高い疎外されたグループに関するデータに重大なギャップがあるため、進捗状況を追跡するためのデータシステムへの投資が求められる。	各国は、政策の有効性を測り、最も脆弱な人々へ支援を届けるため、非開示やスティグマ（烙印）によって過少報告されやすい分野を含めた包括的なデータ収集システムへの資金的・政治的コミットメントを義務付けられる。

補足説明（専門用語）

VAW（Violence Against Women）：女性に対する暴力のこと。
SRHサービス：性および生殖に関する健康ケアサービス。暴力被害者が支援を受ける重要な窓口となる。
RESPECT Women：女性に対する暴力を防止するための枠組みであり、政策立案者を対象としたガイドライン。Relationship skills strengthening（人間関係スキルの強化）など7つの要素の頭文字から構成されている。

今回のレポートが示すように、暴力対策の遅れは、医療・福祉分野における長年の課題であり、投資の不足がその進展を妨げる「資金の堰き止め」のような役割を果たしています。この堰き止めを解消し、被害者中心のケアに資源を振り向けることが、今後の医療経営における重要な政策的課題となるでしょう。