「身寄りなし」の不安解消へ、終活支援を公的事業化。福祉・介護の多岐にわたる連携強化で、地域社会の基盤を再構築

本会議は第31回社会保障審議会福祉部会であり、地域共生社会の更なる展開、身寄りのない高齢者等への対応、社会福祉法人制度のあり方、災害福祉支援体制など、多岐にわたる重要課題を議論しました。

引用

第31回社会保障審議会福祉部会主要論点・合意事項・今後の検討方向

本会議における主要な論点、合意事項、および今後の検討方向を以下の5点に整理しました。

整理された論点	政策的な含意（何が動きそうか／何が変わりそうか）
1. 包括的な支援体制の深化と連携・協働の強化	地域福祉の推進が、福祉分野のみならず教育、住まい、地域再生等、より広範な行政分野との連携・協働（分野を超えた協力）を伴う「共創（Co-creation）」の段階へ移行し、市町村の役割が強化されます。
2. 身寄りのない高齢者等への新たな支援の仕組み	身寄りのない高齢者や判断能力が不十分な方々（判断力が低下した方々）が、費用負担が少なく（無料または低額）、終身にわたる生活支援や死後事務（亡くなった後の行政手続き等）までを公的に利用できる新たな仕組みが導入される方向です。
3. 過疎地域等における複合的な支援体制の整備	人口減少や高齢化が深刻な地域（過疎地域等）において、介護、障害、こども、生活困窮の相談支援を分野横断的に統合し、柔軟な人員配置基準を設けることで、行政による包括的な支援（一つの窓口で様々な困りごとに対応する体制）が実現しやすくなります。
4. 地域の実情に応じた介護人材確保プラットフォームの構築	地域ごとの人材不足の状況に応じたきめ細やかな対策を推進するため、都道府県（自治体）と福祉人材センターなどが中心となり、介護福祉士のキャリアパス支援（仕事での成長・昇進の道筋）と連携・協働による採用・定着活動が組織的に展開されます。
5. 災害福祉支援体制の法制化と平時からの備えの強化	災害時における要配慮者（支援が必要な人）への福祉的支援（相談支援や施設間応援派遣など）の体制が、DWAT（災害派遣福祉チーム）の法制化や自治体計画（地域福祉計画）への組み込みを通じて、平時からの準備と迅速な対応が可能となるよう強化されます。

詳細な解説と論点

1. 包括的な支援体制の深化と連携・協働の強化

地域共生社会の実現に向けた取り組みは現在「第3のステージ」に入っていると認識されており、これまでの措置制度（第1段階）、契約制度（第2段階）から、住民・自治体・事業者が連携する「共創」の段階へと進んでいます。

包括的な支援体制（福祉の相談窓口を統合し、多様な困りごとに対応する体制）の整備においては、福祉の領域に留まらず、労働、教育、住まい、地域再生といった分野を含めた包括的な支援体制につなげることが重要視されています。

市町村が支援体制を整備するにあたり、地域住民の支え合いを促進する施策や、支援関係機関同士の連携、住民と支援関係機関の連携・協働を図る施策を明確化すべきとされました。また、福祉サービス提供における「意思決定支援」（本人の意向を尊重し、意思決定を助ける支援）への配慮の必要性も明確化されるべきです。

2. 身寄りのない高齢者等への新たな支援の仕組み

高齢者を中心に単身世帯が増加し、家族や地域による支え合いの基盤が弱体化する中で、頼れる身寄りがいない高齢者等への生活支援が喫緊の課題となっています。

この課題に対応するため、既存の日常生活自立支援事業（日自事業）を発展・拡充させた「新たな第二種社会福祉事業」の法的位置づけが検討されています。この新たな事業では、日常生活支援に加え、入院・入所等の手続支援と死後事務の支援（葬儀や行政手続きなど）の少なくとも一方を実施することとされます。

特に、資力が十分でなくても支援が必要な者が利用できるよう、利用者のうち一定割合以上が無料または低額の料金で利用できる「無低事業」とすることが提案されています。

また、成年後見制度の見直し（判断能力が不十分な方を法的に保護する制度）に伴い、市町村は、家庭裁判所からの意見照会に対応し、地域における権利擁護支援を推進するための「権利擁護支援推進センター」（中核機関の新たな名称候補）を設置できる仕組みが検討されています。

3. 過疎地域等における複合的な支援体制の整備

人口減少が顕著な過疎地域や小規模市町村では、福祉専門職の不足が深刻です。このため、介護、障害、こども、生活困窮といった分野ごとの相談支援・地域づくり事業を機能別に構造化し、分野横断的な配置基準を設ける新たな仕組みが検討されています。

この新たな仕組みでは、一次相談（広く相談を受け付ける窓口）と専門的相談対応を構造化し、専門的相談については、市町村のニーズに応じて都道府県や近隣市との連携体制（後方支援体制）を構築することが求められます。

また、社会福祉連携推進法人の制度見直しも進められており、地域の福祉ニーズを充足できていない地域において、連携推進法人が第二種社会福祉事業（例：高齢者や障害者のデイサービス、保育事業など）を実施できるよう、要件を緩和する方向性が示されています。さらに、解散した社会福祉法人の残余財産の帰属先に地方公共団体（自治体）を追加することで、地域に不可欠な社会福祉事業の維持に役立てられるようにすることが提案されています。

4. 地域の実情に応じた介護人材確保プラットフォームの構築

2040年度までに約272万人の介護職員が必要と見込まれる中、人材確保は喫緊の課題です。

地域差や地域固有の問題に対応するため、都道府県が設置主体となり、地域の関係者（市町村、ハローワーク、福祉人材センター、介護事業者、養成施設、職能団体等）が情報収集・共有・分析し、実践的な課題解決に取り組むための「プラットフォーム」を制度化すべきとされています。このプラットフォームは、都道府県単位の情報共有の場（第1層）と、市町村単位などの狭い圏域で具体的な取組を推進するプロジェクトチーム（第2層）による重層的な構造を持つことで、PDCAサイクル（計画・実行・評価・改善）を回すことが期待されています。

また、中核的介護人材である介護福祉士の確保・育成のため、離職した潜在介護福祉士だけでなく、現任の介護福祉士にも届出の努力義務を課すことで、実態把握と必要なキャリア支援（研修情報提供など）を行う仕組みへと発展させることが提案されています。

5. 災害福祉支援体制の法制化と平時からの備えの強化

令和6年能登半島地震の教訓を踏まえ、災害時における福祉的支援体制の充実が重要視されています。

災害時に要配慮者（高齢者や障害者、被災困窮者など）への支援を行うDWAT（災害派遣福祉チーム）について、その体制整備や災害時の支援をより安定的、かつ円滑に行う観点から法制度を整備すべきとされました。法制化により、福祉従事者の登録制度や研修・訓練の実施に関する規定が設けられる見込みです。

また、災害時を見据えた平時からの福祉的支援の体制づくりを推進するため、包括的な支援体制の整備における連携対象分野に「防災」を加えることが提案されています。さらに、市町村が策定する地域福祉計画（地域福祉推進のための計画）の記載事項に災害福祉に関する事項を追加し、平時から災害時の対応を検討しておくよう促すとしています。

システム改革の構造に関する補足的な理解促進のために

今回の議論の方向性は、単に既存のサービスを個別に強化するだけでなく、地域社会全体で高齢化や人口減少、多様な課題に対応できるよう、福祉サービス、人材、災害対策といった要素を「分野横断的に連携・統合し、公的関与を強化する」という共通のベクトルを持っています。これは、老朽化した家の土台（地域社会の基盤）を、屋根（特定のサービス）を修理しながら、同時に強固なものに建て替えていくような、総合的な社会構造改革であると言えます。