令和８年度診療報酬改定の基本方針、議論の焦点は「賃上げ」と「医療ＤＸ」

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厚生労働省は令和７年１１月２５日、第１２１回社会保障審議会医療部会を開催しました。この会議では、令和８年度診療報酬改定の基本方針の骨子案や、医療現場の業務効率化・職場環境改善、そして医療分野の基幹インフラ制度への追加など、多岐にわたる重要課題が議論されました。特に、持続的な物価高騰と全産業的な賃金上昇が進む経済状況を踏まえ、医療提供体制の維持と次世代への国民皆保険制度の継承が喫緊の課題として認識されています。

引用

主要な論点、合意事項、今後の検討方向は、主に以下の５点に集約されます。

１. 物価高騰と賃金上昇への対応

論点・検討方向: 日本経済が新たなステージへ移行する中、医療機関は人件費や物件費（医療材料費、食材料費、光熱水費、委託費等）の高騰に直面しています。この厳しい経営状況と、全産業の賃上げ水準から乖離している医療分野の人材確保の難しさを背景に、物価高騰を踏まえた対応と医療従事者の処遇改善が重点課題として位置づけられました。

政策的な含意: 診療報酬の改定を通じて、物価高騰による増加経費を補填しつつ、看護職員やその他の医療関係職種の賃上げを確実に行うための公定価格の引き上げ措置が講じられる見通しです。

２. 医師の働き方改革と医療ＤＸの推進

論点・検討方向: 全ての医療従事者が持続可能な働き方を確保できるよう、医師の長時間労働の改善と業務効率化が強く求められています。具体的には、ＩＣＴ、ＡＩ、ＩｏＴなどの利活用を推進し、タスク・シェアリングやタスク・シフティングを一層進める方針が示されました。また、医療の質の確保・向上を前提としつつ、診療報酬上求める人員配置基準や専従・専任要件といった基準の柔軟化についても検討を進める必要があります。

政策的な含意: 医療現場でのデジタル技術の導入が加速し、規制改革として診療報酬における人員配置基準の見直しが、医療の質を担保しつつも少ない人数で業務を行えるように図られます。

３. 地域医療の確保と機能分化の深化

論点・検討方向: ２０４０年頃を見据え、医療・介護の複合ニーズを持つ８５歳以上人口が増加する地域構造の変化に対応するため、限られた医療資源の最適化が急務です。「治す医療」と「治し、支える医療」の役割分担を明確化し、在宅療養患者や介護保険施設入所者の後方支援機能を持つ医療機関の評価や、リハビリテーション、栄養管理、口腔管理等の高齢者ケアの推進が具体的な方向性として挙げられました。また、かかりつけ医、かかりつけ歯科医、かかりつけ薬剤師の機能の評価を引き続き強化します。

政策的な含意: 急性期から回復期、在宅まで切れ目のない医療提供体制の構築が進み、特に地域包括ケアシステムを支えるかかりつけ機能や高齢者ケアを担う医療機関の評価が充実されます。

４. 医療分野の基幹インフラ制度への追加

論点・検討方向: 近年多発するサイバー攻撃から医療の安定的提供を守るため、経済安全保障推進法に基づく基幹インフラ制度に医療分野を追加することが検討されています。高度な医療を提供する能力を持つ医療機関、特に特定機能病院を「地域の最後の砦」として対象とし、サイバー攻撃等への対応強化を図る方針です。また、電子カルテ情報共有サービスなどの医療ＤＸ基盤を担う支払基金も特定社会基盤事業者とすることが検討されます。

政策的な含意: 特定機能病院では、電子カルテや手術部門、集中治療部門に関連する重要設備の導入・維持管理において、国の事前届出・審査が必要となり、医療インフラのセキュリティ管理が大幅に強化されます。

５. 医療保険制度の効率化と持続可能性の向上

論点・検討方向: 国民皆保険を維持するため、医療費の増大が見込まれる中で、制度の安定性・持続可能性を高めるための適正化策が継続されます。具体的には、後発医薬品・バイオ後続品の使用促進、費用対効果評価制度の活用、市場実勢価格を踏まえた適正な評価が推進されます。さらに、現役世代の負担を抑制する観点から、ＯＴＣ類似薬を含む薬剤自己負担のあり方の見直しについても議論が進められています。

政策的な含意: 医薬品の価格決定や保険給付のあり方が見直され、特に長期収載品の保険給付の見直しやＯＴＣ類似薬の自己負担化など、費用効率化を目的とした国民負担のあり方に変化が生じる可能性があります。

基本認識と今後の展望

今回の改定は、日本経済の「コストカット型経済からの脱却」という大きな潮流の中で進められます。社会保障制度の安定性・持続可能性を確保しつつ、現役世代の保険料負担の抑制努力にも配意することが基本認識として掲げられています。会議では、医療機関の厳しい経営状況を国民に理解してもらうための丁寧な説明や、診療報酬制度を分かりやすくするための国の取り組みの継続が重要であるとの意見も出されました。今後、これらの骨子案に基づき、１２月上旬には基本方針（案）が取りまとめられ、令和８年度診療報酬改定に向けて具体的な議論が深まる予定です。