「働く女性」「外国人」の健康をどう守る？職場健診の検査項目大改革、追加・維持の最新論点

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引用

本会議は労働安全衛生法に基づく一般健康診断の検査項目等に関する検討会における、現行の検査項目の妥当性、および社会情勢の変化を踏まえた検査項目の見直し（追加・維持・検査手法など）を議論しました。この検討は、政府の規制改革実施計画や「女性版骨太の方針 2023」に基づき、最新の医学的知見や労働者の健康課題の変化を反映させることを目的としています。

以下に、本会議で議論された主要な論点、検討方向、および政策的な含意を5つに整理します。

労働安全衛生法に基づく一般健康診断：主要な論点と政策的含意

No.	主要な論点・今後の検討方向	政策的な含意（何が動きそうか／何が変わりそうか）
1	女性の健康課題への対応強化	女性特有の健康課題（月経困難症、更年期症状など）に対応するため、問診項目が拡充され、事業主による健康支援の義務が強まる可能性がある。
2	慢性腎臓病（CKD）の早期発見のための検査項目追加	血液検査項目に血清クレアチニン値（腎機能評価指標。推算GFRの算出に利用）が追加されることで、労働者の慢性腎臓病（CKD）の早期発見・治療介入が進み、透析導入による医療費負担や労働力喪失の抑制が期待される。
3	ウイルス肝炎検査の拡大	C型肝炎を含むウイルス肝炎検査が、職域検査の血液採取時に生涯に一度実施されるよう一般健康診断に追加されることで、特に今まで受検機会の少なかった層への感染者発見と肝がん予防治療の拡大が見込まれる。
4	心電図検査の維持とAI導入による高度化	心電図検査が維持され、特にAI解析技術が導入されることで、長時間労働などに起因する脳・心臓疾患リスク（労災認定の対象疾病）の早期予測と就業上の配慮（事後措置）の質が向上する。
5	眼底検査および歯科健診の追加検討	眼底検査（緑内障や糖尿病網膜症の早期発見）と歯科健診（歯周病と全身の健康、VDT作業による顎関節症の関連）の追加検討により、目の不調や口腔疾患が引き起こすプレゼンティーイズム（健康問題による生産性低下）や転倒災害への対策が、従来の生活習慣病対策に加えて強化される。

各論点の詳細と背景

1. 女性の健康課題への対応

政府の「女性版骨太の方針 2023」では、労働安全衛生法に基づく一般定期健康診断の問診に、月経困難症、更年期症状等の女性の健康に関連する項目を追加することが決定されています。これは、高齢化の進展と女性の就業率増加という社会情勢の変化に対応するものです。

2. 慢性腎臓病（CKD）対策としての検査追加

日本腎臓学会などから、慢性腎臓病（CKD）の早期発見のため、一般健康診断に血清クレアチニン値の追加が強く要望されています。日本の勤労世代（20歳〜65歳）には約250万〜500万人のCKD患者がいると推定されており、毎年約1万人の勤労世代が透析導入に至っています。現行の尿検査だけでは、多くのCKD患者が見落とされていると考えられており、長時間労働や睡眠不足などがCKDの発症・進行リスクを高めるため、業務起因性・業務増悪性の観点からも追加が求められています。検査費用は比較的安価（50〜100円程度）で、巡回健診でも実施可能です。

3. ウイルス肝炎対策の推進

日本肝臓学会などから、C型肝炎（HCV）検査を含むウイルス肝炎検査の追加が要望されています。世界保健機関（WHO）は2030年までにウイルス性肝炎を撲滅する戦略を採択しており、日本も撲滅目標達成のためには、職域における検査拡大が必要です。職域での検査実施率は約5%と遅れており、特に女性の社会参画増加に伴い、これまで受検機会がなかった層への検査提供機会になることが期待されています。

4. 胸部X線検査と心電図検査の維持

既存の主要項目についても、その必要性が改めて確認・要望されています。

心電図検査の維持： 日本循環器学会などから、心電図検査の継続実施が強く要望されています。心電図は、心血管疾患、突然死、心房細動（脳梗塞の原因の一つ）のリスク評価に不可欠であり、過重労働による脳・心臓疾患の労災認定が増加する40歳以降の労働者、および若年層の不整脈リスク把握のためにも重要とされています。将来的には、AI技術を活用した高精度な解析により、健診の質と効率の両立が期待されています。
胸部X線検査の維持： 日本呼吸器学会などから、結核等の呼吸器疾患等の一般的なスクリーニング検査として維持が要望されています。特に、結核高蔓延国からの外国人労働者の増加に伴い、結核対策上の有用性が高まっており、職場健診での胸部X線検査の廃止は適切ではないとの見解が示されています。

5. 労働生産性と安全に関わる健診項目の検討

労働安全衛生の観点から、生産性低下（プレゼンティーイズム）や事故に関連する項目が議論されています。

眼底検査： 視機能が大幅に低下する疾患の約80%が眼底疾患（緑内障、糖尿病網膜症など）ですが、早期は視力検査では発見できません。視機能の低下は転倒災害や交通事故のリスクを高め、また目の不調はプレゼンティーイズム（健康上の問題により出勤していても生産性が低下する状態）の年間損失額上位に位置することから、眼底検査の追加が要望されています。
歯科健診： 歯周病が全身の生活習慣病に影響を与える点、自身の歯の数が寿命や健康寿命に相関する点、そしてストレスやVDT作業の長時間化が顎関節症（あごの関節や筋肉の病気）の要因となる点が指摘されています。歯科的な問題はプレゼンティーイズムの主要な原因の一つであり、その追加が強く望まれています。