【要約】組織再編に伴う労働関係の調整に関する部会(第6回)

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本会議は、主に事業性融資推進法（有形資産に乏しい企業が事業の将来性を担保とする「企業価値担保権」を創設する法律）の施行に伴い、「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針」を改正する案について審議し、厚生労働省案が「おおむね妥当」であると結論づけられたものです。

この会議における主要な論点・合意事項、および今後の検討方向を5つに整理し、それぞれについて政策的な含意を説明します。

第６回労働政策審議会（労働条件分科会「組織再編に伴う労働関係の調整に関する部会」）（資料）

主要な論点・合意事項・今後の検討方向

項目	主要な論点・合意事項・今後の検討方向	政策的な含意（何が動きそうか／何が変わりそうか）
1. 管財人（かんざいにん）による労使協議の義務	企業価値担保権（事業全体を担保とする新しい融資制度）の実行に伴う事業譲渡において、管財人（担保権実行手続きを主導する者）に対し、既存の事業譲渡指針に基づき、個々の労働者や労働組合等との協議・情報提供を行うことが義務づけられます。	担保権実行という危機的な状況下でも、労働者の雇用や労働条件に関する十分な話し合いの機会を確保するための手続きが、法的な位置づけを持つ指針によって明確化されます。
2. 管財人の労働法上の地位の明確化	担保権実行手続における管財人は、労働者も含めた利害関係人全体に対して善管注意義務（高い注意義務）を負うとともに、労働組合法上の使用者（団体交渉に応じる義務などを持つ立場）の地位を承継すると明確化されます。	企業再編時の管財人は、単なる債権者の代理人ではなくなり、労働法制上の義務を負う主体となるため、不当労働行為（組合員に対する不利益な取り扱いなど）が生じた際の労働者保護の実効性が高まります。
3. 担保権設定時の情報提供の促進	企業が企業価値担保権を設定する際、労働者の理解と協力を得るため、会社の状況に応じて労働組合等へ、経営課題や資金調達の方法（担保権の内容を含む）について情報提供や意見交換を行うことが「望ましい」とされます。	融資を受ける段階から、経営層は従業員に対し、事業の状況と新しい担保権の利用について、積極的に情報共有し、労使の協力体制を築く努力が促されます。
4. 企業再編全般における労働者保護の検討	事業譲渡（個別の同意が必要な事業の売買）をはじめとする企業組織再編全般について、労働契約の承継や労働組合との協議・情報提供に関する法的保護ルール（会社分割時のルールを参照）を整備する必要性について、引き続き速やかに検討が進められます。	現行の指針見直しにとどまらず、事業譲渡時における労働者保護を強化するため、将来的に会社分割における労働契約承継法のような新たな立法措置が講じられる可能性が残されています。
5. 雇用の維持原則と承継先の選定基準	企業価値担保権の実行による事業譲渡は、事業を解体せずに雇用を維持しつつ承継することが原則とされ、管財人は譲渡金額の多寡だけでなく、雇用の維持や取引関係の維持など多様な事情を考慮して最も適切な承継先を選定することが求められます。	担保権の実行プロセスにおいて、事業価値を維持する観点から、労働者の雇用の継続が、単なる売却価格以上に重要視される評価基準として位置づけられます。

【専門用語の補足】

企業価値担保権（きぎょうかちたんぽけん）：事業の将来性や総財産（無形資産を含む）を一体として担保の目的とする、新しい融資制度です。
管財人（かんざいにん）：裁判所によって選任され、担保権が実行される際に、企業の財産を管理・換価（現金化）する責任を負う専門家です。
善管注意義務（ぜんかんちゅういぎむ）：善良な管理者として、社会通念上要求される高い注意をもって職務を遂行しなければならない法的な義務です。
労働契約承継法（ろうどうけいやくしょうけいほう）：会社分割の際に、労働契約や労働協約が承継されるルールや、労働者の異議申立権を定めた法律（正式名称：会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律）です。

この会議の議論は、企業が新たな資金調達手段を利用する際や、企業再編を行う際に、労働者の権利保護と事業継続のバランスをどのように確保するか、その新たな基準を示すものと言えます。これは、まるで古い建物をリフォーム（企業再編）する際に、建物の価値（事業価値）を維持するだけでなく、そこに住む人々（労働者）の生活基盤（雇用）も守るための「建築基準」をより詳細に定めるようなものです。