ポリオ「国際的な公衆衛生上の緊急事態」継続が決定：資金難と紛争地域でのワクチン接種戦略の課題が浮き彫りに

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ポリオウイルス（野生株および循環型ワクチン由来株）の国際的な感染拡大に関する第43回WHO国際保健規則（IHR）緊急委員会の審議結果について論じています。この会議は、2025年10月1日に開催され、2027年までの野生ポリオウイルス（WPV1）撲滅、および2029年までの循環型ワクチン由来ポリオウイルス2型（cVDPV2）排除という世界的な目標を背景に、現状のデータがレビューされました。

引用

Statement of the Forty-third meeting of the Polio IHR Emergency Committee

The Forty-second meeting of the Emergency Committee under the International Health Regulations (2005) (IHR) on the inter...

以下に、この会議の主要な論点、合意事項、今後の検討方向を5つに整理し、それぞれの政策的な含意を説明します。

No.	主要な論点・合意事項・今後の検討方向	専門用語の補足	政策的な含意（何が動きそうか／何が変わりそうか）
1	ポリオウイルス感染拡大リスクの継続的認定	PHEIC（Public Health Emergency of International Concern）：国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態。	ポリオの国際的な感染拡大リスクは依然として高いと判断され、各国における一時的な推奨措置（渡航者へのワクチン接種証明など）がさらに3か月間延長されます。
2	野生ポリオウイルス（WPV1）撲滅に向けた戦略の強化	WPV1：野生ポリオウイルス1型。	アフガニスタンとパキスタンという常在国（ポリオが根絶されていない国）では、治安上の制約が続く地域に対し、ワクチン接種の質を高めるための「戸別訪問」などの戦略転換が緊急に求められます。
3	循環型ワクチン由来ポリオウイルス（cVDPV）の新規発生と低免疫地域の拡大	cVDPV：ワクチン接種後に変異し、感染力を持つようになったポリオウイルス。	アルジェリアやイスラエルを含む複数の国々で新たなウイルス型（cVDPV1、cVDPV3）の発生が確認されたため、世界的に低迷している定期予防接種（特に不活化ポリオワクチン（IPV）2回目の導入）の早期強化が促されます。
4	ポリオ根絶活動に対する深刻な資金不足	GPEI（Global Polio Eradication Initiative）：世界ポリオ根絶推進計画。	世界的なポリオ根絶活動を支えるプログラム（GPEI）は財源が約30%不足しており、監視活動の維持や計画の完全な実行に重大なリスクが生じるため、ドナー国や各国政府による財政支援の緊急的な強化が求められます。
5	国際保健規則（IHR）改正に伴う渡航要件の遵守	IHR：パンデミック対応を含む公衆衛生上の脅威に対する国際的な枠組み。	感染国から渡航する住民や長期滞在者に対し、出発前4週間から12か月以内にポリオワクチン（bOPVまたはIPV）の接種を義務付け、改正されたモデルの国際予防接種証明書（ICVP）を提供する厳格な管理体制が引き続き適用されます。

補足的な洞察

ポリオの現状認識

委員会は、野生ポリオウイルス1型（WPV1）の伝播は地理的にはアフガニスタンとパキスタンの2つの常在国に限定されているものの、特に両国の国境地域やパキスタンの南ハイバル・パシュトゥンハー（South KP）、カラチ、アフガニスタンの南部地域といった「コアリザーバー（主要な感染源）」での感染が依然として強く、国際的な拡大リスクを継続させていると懸念を表明しました。

一方、循環型ワクチン由来ポリオウイルス（cVDPV）については、ナイジェリアやエチオピアといったアフリカ地域に加え、イエメンなど紛争地域でのアクセス不良や、イスラエル、アルジェリア、カメルーン、チャドといった複数の国々で新たなウイルス型が検出されており、世界的な免疫ギャップの拡大が懸念されています。このため、ポリオ根絶は達成されるまで世界的な脅威であり続ける、と強調されています。

IHR改正と「パンデミック緊急事態」の判断

この会議は、2025年9月19日に発効した改正IHRの下で初めて開催されました。IHRの改正には、より高いレベルの警戒を示す「パンデミック緊急事態」の概念が導入されましたが、委員会は、ポリオの状況は「国際的な公衆衛生上の緊急事態（PHEIC）」を構成するものの、現時点では「パンデミック緊急事態」には該当しないと結論付けました。これは、ポリオの感染拡大リスクは高いものの、改正IHRが定義する、広範な地理的拡大、医療システムの対応能力の超過、社会経済的な混乱を伴うレベルには達していないと判断されたことを意味します。

この状況は、たとえるならば、「ポリオ根絶というゴールテープまで残りわずかな距離で、マラソンランナーが資金や安全保障の壁に直面している状態」と言えます。一見、ゴールが近いように見えても、最も困難な地域（コアリザーバー）で足踏みをしており、さらに後方から新たなリスク（cVDPVや資金難）が追い上げてきているため、全速力で戦略を立て直し、資金を確保しなければ、これまでの努力が水泡に帰す可能性があることを示唆しています。