緊張感のある場面が少なくなった。初めての体験で息を呑む瞬間や、静かな空気の中で発表する場面など、多少の緊張感が好きだった。
薄暗い仏壇の前で初めてマッチを擦って火がついたときのことを覚えている。怖さの後に感じた達成感で、全身に酸素が行き渡ったような感覚になった。
ピアノの発表会で熱いライトに照らされながらお辞儀をし、ピアノと1対1でぶつかり合ったあのときの空気とホールに響いた音は、自分が作ったものだと錯覚した。
水泳の大会で、飛び込み台に上がり、静寂後の合図と共に水中に飛び込む。息継ぎをする度に、途切れて聞こえる歓声が音圧となって私の背中を押した。
今は体験しないようなことが沢山溢れていた。大人になった私は、初めての体験や緊張する場面にほとんど出会わない。退屈な日々を歩く私は、自分から新しいことに挑戦しないといけない。子どもの頃の自分に励まされた気がした。
てくてく通信 2025年8月13日号掲載



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