2040年医療崩壊への対策は？急性期再編と財源確保、政策を動かす「市民の声」：日本医療政策サミット2025報告

今日も医療政策をウォッチャーしましょう！

Xのフォローもよろしくお願いいたします！！

日本医療政策機構（HGPI）が創立20周年を記念して開催した「医療政策サミット2025」における、人口動態の変化に伴う未来の急性期医療提供体制の在り方と、エビデンスに基づく市民主体の医療政策の実現可能性という二つの主要テーマについて論じています。

引用

【開催報告】創立20周年記念「医療政策サミット2025」（2025年2月1日） | 日本医療政策機構

※開催報告書を公開しました。（2025年11月11日）日本医療政策機構は、2025年2月1日に創立20周年記念「医療政策サミット2025」を開催しました。日本医療政策機構は、多くのご支援とご賛……

以下に、会議の主要な論点・合意事項・今後の検討方向を5つに整理し、それぞれの政策的な含意を説明します。

主要な論点・合意事項・今後の検討方向と政策的な含意

1. 医療提供体制の抜本的改革と医療機能の戦略的な再編・集約

高齢化（特に2040年頃に85歳以上人口がピークを迎える）による救急搬送や在宅医療需要の急増に対し、現行体制での対応は困難であり、医療機能の再編・集約は避けて通れない課題である、との認識が共有されました。国や都道府県は明確なビジョンとリーダーシップをもって、地域医療構想（地域に必要な医療資源や機能を再配置する計画）の実効性を高めることが求められています。

政策的な含意（何が動きそうか／何が変わりそうか）:
地域医療構想は「形骸化」することなく国策として強力に推進され、高度急性期・急性期を担う中核病院への医療資源の集中が加速し、地域包括ケアシステム（在宅医療・訪問看護）の資源整備が急務となります。

2. 医療従事者の偏在対策と「地域全体での育成・確保」への転換

医師、看護職を含む多くの医療従事者の確保が困難を極めており、特に外科領域における医師不足は国民の医療アクセスを脅かす喫緊の課題と認識されました。従来の医療機関任せの採用・育成から脱却し、大学病院や地域中核病院が教育研修拠点となり、地域全体で医師や看護師をサポートし、キャリア形成を支援する新たな仕組みの構築が急がれます。

政策的な含意（何が動きそうか／何が変わりそうか）:
医師の働き方改革（長時間労働の是正）と若手医師の研修機会の確保の両立が図られ、地域偏在対策（医学部地域枠やシーリング制度）は効果を客観的に評価した上で抜本的な見直しが進められるでしょう。

3. 国民皆保険制度の持続可能性確保と診療報酬の戦略的活用

医療技術の高度化や高齢化の進展に伴う医療費増加は避けられない現実であり、将来にわたり質の高い医療を提供し続けるために、聖域を設けない（特定の分野を例外としない）財源確保策の検討と実行が国家の責務であると指摘されました。また、急性期病院の経営基盤の安定化が重要であり、診療報酬制度（医療行為の対価）を単なる支払い機能ではなく、医療の質向上や効率的な資源配分を促す戦略的ツールとして位置づけるべきです。

政策的な含意（何が動きそうか／何が変わりそうか）:
給付と負担のバランスに関するオープンな国民的議論が深まり、診療報酬改定において、医療の質や地域医療への貢献にインセンティブ（誘因）を与える評価が重視されるようになります。

4. EBPM（証拠に基づく政策形成）における質的エビデンスの統合

政策形成において、客観的な量的データ（数字で示されるデータ）のみがエビデンス（証拠）であるという誤解を解消し、患者・当事者の「信念」や「感情」といった、数字で表しにくい質的なエビデンス（Narrative Based Medicine：語りに基づく医療）を政策の根拠として組み込むべきである、と合意されました。特に、医学における過去のエビデンスが一部の層（富裕で教育レベルの高い人々）を中心に構築されてきたという偏りを克服する上で、当事者の「声」が重要視されます。

政策的な含意（何が動きそうか／何が変わりそうか）:
政策評価や新たな医療技術の導入において、従来の治験データ（Efficacy：有効性）に加え、地域での生活における効果（Effectiveness）や患者の主観的な満足度（Satisfaction）を客観的なエビデンスとして収集し、政策決定に反映させる枠組みが構築されます。

5. 医療DX（デジタルトランスフォーメーション）の加速的推進

医療現場の生産性向上、医療従事者の負担軽減、医療安全の強化、そして質の高い患者価値の提供のために、医療DXを戦略的に推進することが不可欠であるとされました。電子カルテ情報の標準化と共有体制の確立、オンライン診療の適切な普及、AI（人工知能）技術を活用した診断支援や煩雑な事務作業の自動化などが具体的に挙げられています。

政策的な含意（何が動きそうか／何が変わりそうか）:
国を挙げた強力なリーダーシップのもと、電子カルテのデータ標準化や情報インフラ整備に対する財政支援や技術開発支援が加速し、医療機関間の情報連携が飛躍的に強化される見込みです。

まとめ（比喩）

今回の議論は、単に目の前の問題を修理するのではなく、老朽化し、人口構造に合わなくなった「巨大な医療インフラ」を、2040年の需要ピークに向けて建て替え、同時にその設計図（政策エビデンス）を国民全員の「声」を反映したものに刷新する作業に例えることができます。この建て替えには、安定した財源という「基礎工事」と、医療DXという「最新の建設技術」の導入が不可欠です。