久屋大通のホテルを出て地下鉄に乗り、名港線直通の名城線で名古屋港駅に着いたのは夕方の16時過ぎだった。部長は動物が大好きなので、名古屋港水族館に連れていきたかった。イルカショーの時間が15分後に迫っており、この日二度目の競歩で水族館に向かった。夕方になってもまだ日差しは強く、旅行中のアドレナリンをもってしても私たちは限界を超え続けていた。入館すると、イルカやシャチの見える大きな水槽を横目にイルカショーの会場へ急いだ。水しぶきがかかるような前方の席は埋まっていたため、全体が見渡しやすく日陰になった後方の席に座った。
会場には鳩がたくさんいて、客席を闊歩していた。「ハティーがいるね」と話した。鳩のことを私たちは「ハティー」と呼んでいる。あだ名をつけるのが好きなのだ。部長の大学院のゼミのことは「セミ」と呼ぶ。蝉のことは別に「ゼミ」とは呼ばない。この日は「ヒト」のことを「ヒティー」と呼ぶことにもはまっていた。私たちが使うあだ名は、私たちの中でのトレンドが過ぎたら使わなくなるし、周りに聞かれたら若干恥ずかしいものばかりだ。でも、恥ずかしいくらいでなければヒリヒリ感がないのだ。ヒリヒリ感とはつまり、後ろめたさと快感の絶妙なバランスだ。これからも絶妙にヒリヒリするあだ名を思い付き続けたい。
ちなみにこのおかしなあだ名の使用には、部長はただ付き合わされているだけである。部長は決して後ろめたさと快感の絶妙なバランスを楽しんでいるわけではない。彼に罪はない。彼は先日家に住んでいる家グモを「クモティー」と名付けたがそれは恒常的な名前なのであだ名ではない。話が逸れた。
イルカショーは大盛況だった。部長はショーの前のイルカクイズにも熱心に参加していた。やっぱり動物が好きらしい。それに、部長が観客参加型のイベントの客になる場合、壇上の演者へのリスペクトがいつもすごい。拍手とか大きいし、「イエーイ」と反応するし、笑うところで「アハハ」と言っている。きっと演者の気持ちがよくわかるんだなあ。定期的にどこかしらでなにかしらの発表をしているし。学生時代はミスコンの司会やったと言っていたし。いい人だなあと思った。イルカの顔のまんなかのモコっとした部分は「メロン」というらしい。クイズは3問あったのだけど私の心に残ったのはそれだけだった。私は動物よりも部長に興味があるらしかった。
イルカショーが終わって、水族館の入り口に戻り、イルカとシャチの水槽から順路をたどった。マナティが可愛かった。カメが大きかった。クラゲの展示のところだけカップルが多かった。もし野生のタカアシガニに遭遇したら気絶しそうだと思った。イワシの群れの展示が綺麗だった。群れの流れ作るためにサメを同じ水槽に入れて追いかけさせているんだろうねと部長が言った。それはちょっと可哀そうなのかもと思ったけど、私は結局すべての展示を楽しんだ。部長はもっと楽しんでいた。
水族館の感想は私よりも部長が書くのがいいだろう。珍しいカメに興奮したり、そもそもそのカメが珍しいかどうかがすぐに分かったりと、部長は動物リテラシー(?)が高い。これは翌日の東山動植物園でも垣間見えたが、その話は少し先だ。とにかく楽しそうでよかった。私もとても楽しかった。水族館を出たあとは、すぐそばのふ頭で港を眺めた。日はすっかり傾いて、過ごしやすい気温になっていた。とてもお腹が空いた。
私たちは今回の旅で名古屋グルメをできる限り食べ尽くしたいと思っていた。蓬莱軒、味仙、手羽先、名古屋コーチンなど、候補はたくさんあった。この日の夜は手羽先と名古屋コーチンをハシゴすることにした。名港線を戻って金山駅にまた降り立った私たちは、まずは手羽先を食べに「世界の山ちゃん」を訪れた。夜の金山駅は人で賑わっており、朝に見たような静けさは無く、部長はそこに驚いていた。びよ~んと伸ばした恵比寿みたいだねと話した。確かに、ちょっと広い恵比寿だなあ。恵比寿の朝も、まるで街全体が疲れきったように静かだし。
世界の山ちゃんの手羽先はコショウが効いた味で有名だ。私たちは初挑戦だった。思っていたよりも7倍くらいコショウが効いていて、パンチのある味だった。一人前で5個の手羽先が来たのだけど、一度に5個食べるにはもう少し慣れが必要だと思った。でも、思い出すと食べたくなる。クセになる辛さだったんだなあ。東京でも食べられるみたいなので、また食べたい。
手羽先を食べたあと、名古屋コーチンの「一凰」という店に行った。幕末の志士が密談していそうな個室の座敷は、風情があって好きだった。そんな雰囲気だけど、メニューには税込の値段が書いてあって安心した。メニューに赤文字で「オススメ」と書いてあった親子丼と、焼き鳥を頼んだ。部長は日本酒を、私は果実酒を頼んだ。食事もお酒も美味しかった。特に、焼き鳥は信じられないくらい美味しかった。正直、このお店では親子丼よりも焼き鳥を食べるべきだ。「オススメ」よりもオススメだ。
お腹いっぱいまで食べて外へ出ると、遠くで雷が鳴っていた。雨が降るのかもしれない。時間はまだ20時くらいだったと思うけれど、宿泊先のホテルへ帰って眠ることにした。この日は早起きして、たくさん歩いて、たくさん急いで、とても疲れた。とても楽しかった。
~名古屋旅行記⑤へ続く~
【筆者について】
副部長(ふくぶちょう)
関西出身・関東在住・会社員
最近のできごと クモティーが失踪した
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