論文てくてく便 vol.1

論文てくてく便

【今回ご紹介する論文】
Medication adherence―Everybody’s problem but nobody’s responsibility?
Chan, Amy Hai Yan, and Daniel Frank Broughton Wright. 2024.
British Journal of Clinical Pharmacology, December.
https://doi.org/10.1111/bcp.16384.

【背景】
慢性疾患の治療薬の約50%が指示通りに服用されていないが、この統計は何十年もの間変わらず、研究や資金投入にも関わらず改善が見られない。
服薬アドヒアランス(患者さんが医療者の推奨通りに薬を使用すること。以下、アドヒアランス)は治療効果に不可欠であるが、医療提供において優先順位が低い。
診断や薬剤投与などの他の臨床意思決定とは異なり、アドヒアランスのモニタリングは標準化されておらず、患者の自己報告に頼ることが多い。

【主な研究結果】
1. アドヒアランスのモニタリング不足:多くの医療従事者が、治療目標が達成されない場合でもアドヒアランスを定期的に確認していない。医療者の53.7%が治療目標が達成されなかった場合のみ確認し、4.4%は、病状が悪化していてもアドヒアランスを重視しないと回答。
2. 潜在的なリスクとコストの非効率性:アドヒアランスを確認せずに治療を変更すると、不要な治療変更や医療費の増加につながる可能性がある。例えば、経口薬が効かない患者に高額な生物学的製剤を使用する前に、服薬遵守を確認しないのは非合理的である。
3. 専門職の責任に対する意識の低さ:11%の看護師や薬剤師が「治療評価は自分の役割ではない」と認識している。薬剤師はアドヒアランス対策に最も適した職種であるはずだが、実際には最も消極的である。アドヒアランスを確認(31.6%)、記録(52.0%)、介入(57.7%)する割合が他の職種より低い。
4. アクションを阻む要因:知識不足、確立されたガイドラインの欠如、標準化された記録・報告システムの未整備が、アドヒアランスのモニタリングや介入を妨げている。

【改善への提言】
1. アドヒアランスのモニタリングをすべての医療従事者の必須スキルとして統合する。
2. 患者の自己報告に頼るのではなく、客観的な測定方法を活用する。
3. 国際的なガイドラインを改訂し、以下を標準化する:
        ?       アドヒアランスモニタリングの最低限の実践基準
        ?       記録・報告システムの標準化
        ?       エビデンスに基づくアドヒアランス向上のための介入策

【結論】
この研究は、アドヒアランスを医療のルーティンに組み込み、国際的に標準化された実践を導入する必要性を強調している。これにより、治療効果の向上と医療資源の効率的な活用が可能になる。

【なぜこの論文を選んだのか】
私の大学院での専門が「服薬アドヒアランス」だからです。私が色々な論文を読んでいる中で、ぼんやりと「これがわかっていないな」と整理を試みていたのですが、はっきり明文化してくださった論文でした。出会えてとても嬉しかったです。

【この論文を読んで】
「服薬アドヒアランス」という言葉は医療系であればかなり馴染みのある言葉ですが、取り組めているかというとあまりそうではないのではないか?と感じています。将来的な取り組みの一助となるようなことを研究から貢献できたらと考えています(どこまでできるのかはわかりませんが…)。
また、医療者目線が強く、気を抜くと患者さん側の視点が抜けやすい領域であることも留意する必要があるかと思います。
現役の医療者・患者さんの視点も勉強させていただきつつ、社会の役に立てるような研究成果が出せるように日々少しづつトライをしたいと思います。

また次の配信でお目にかかりましょう。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。

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著者 部長(ぶちょう)
 東大院生。ときどき薬剤師。
 忙しい日常にホッと一息を作り出せると幸せ。
 好きなことは散歩・読書・地図を眺めること。
 やわらかであたたかい言葉を紡げるようになりたい。

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