「スナックてくてく」vol.2

スナックてくてく

(前回から続く)

ーお店に戻る
私のいつもの、は生ビールである。でも実は生ビールって私の身体にはあまり合わない気がする。少し身体に負担がかかる気がするんだよなあ…。
少しだけ迷って、勇気を出してマスターに聞いてみる。
「あの、今日は寝不足であんまり体調よくなくて。どうもうまく眠れなくて。」
「ありますね。そういう時。」
マスターはいつも聞くのがうまい。声が低くて渋い。
「充実感、みたいなものが欲しいんですよね。新しいものとの出会い、とか、新鮮な気持ち、みたいな。いつものだとマンネリ化してしまうので、今日はいつもと違う新しいのが飲みたいです。」
「ほう、なるほど。そうですね…。」
マスターは少し悩んでいる様子だ。
「ウイスキーはよく飲まれますか?」
「よくは飲まないです。正直あんまりわからないです。」
「なるほど。それなら。」
マスターはおもむろに瓶を取り出す。
「比較的フルーティーな甘口で香りが柑橘系のレモンとかスッキリした感じだからロックでも飲みやすいと思います。これのロックで少し格好つける、なんてどうでしょう。音楽もちょっと変えてPodcastなどにしてみたりして。」
それはあたらしい。おもしろそうだ。顔に出ていたのだろう。私はすぐ顔に出る。マスターも実は緊張していたりして。なんとなく緊張とけたような顔をしている。
「はい。それでお願いします。」

ー提供
「お待たせしました。」
「カッコいいですね。ありがとうございます。」
「グレンフィディック12年と言います。飲みやすいと思います。これは友人がこの前持ってきたやつなんですよ。」
「へー、そうなんですね。」
「音楽も変えますね。」
マスターが音楽を変える。
『こんばんは』『こんばんは、てくてく放送部の時間です。』『てくてく放送初期メソ薬剤部の部長です。』『主任です。』『てくてく放送初期メソ薬剤部はアラサー薬剤師の日常をゆるっとお話する番組です』
「たまには気分を変えて、こういうラジオっぽい番組などいかがでしょう?」
「いいですね。聞いたことなかったけど、本当にゆるっとしていますね。」
「そうなんです。この番組はコンセプトがあって、ホッと一息の時間を演出したいみたいです。そういった意味も含めて、今の時間に合っているかな、と思ったんです。」
「いいですね。ありがとうございます。」
グラスにそっと口をつける。
「あ、おいしい。」
ぼそっと声が出る。
「お口にあってよかったです。」
なんとなく薄暗い空間。席は6席。私はいつも奥から2番目の席に座る。なんとなく落ち着くから。20時開店で開店間際に来るのは私くらいだ。
Podcastに耳を傾ける。そういえば薬剤師の人で発信している人って少ないイメージだけど、いるんだな。この低い声の人はマスターの声に似ている。渋い。
音声に耳を傾けながら、時折ウイスキーを口に運ぶ。これはたまらない。徐々に精神が落ち着いてきたのがわかる。
「少し焦っていたのかもしれないですね。」
おもむろにマスターに話しかける。
「自分でも焦りに気がつかずに、呼吸が浅くなったりすることってあるようですね。そんなときは心を落ち着かせるといいのかもしれません。」
「なるほど。」
私はずいぶん落ち着いたらしい。来たときよりも時の流れがゆっくりと感じられる。

「ありがとうございました。美味しかったです。」
「いつもありがとうございます。また落ち着きたいときにもぜひに。」
ウイスキー1杯で滞在時間も40分くらいだったけど、来る前とは全く違う心持ちである。

「明日も頑張りますか。まずは帰って寝ましょう。」
白い息が電灯に光る。今夜も寒くなりそうだ。

ーそのお店は駅からほど近い、住宅街の中にある。
ーその名は、スナックてくてく

話に登場したお酒(グレンフィディック12年)はこちら(Amazon)
https://amzn.to/4iwP2xG

話に登場したラジオはこちら(Podcast)

てくてく放送部のメルマガが近日始動します!
部長のエッセイ「てくてくと、今日も」などの連載をお届けします。
是非ご登録をお願いします♪

登録フォーム


☞メルマガ登録
 メールアドレスを入力してお申込みください。

著者 部長(ぶちょう)
 東大院生。ときどき薬剤師。
 忙しい日常にホッと一息を作り出せると幸せ。
 好きなことは散歩・読書・地図を眺めること。
 やわらかであたたかい言葉を紡げるようになりたい。

コメント

タイトルとURLをコピーしました